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仙台地方裁判所石巻支部 昭和30年(ワ)61号 判決 1956年10月16日

原告

阿部藤治郎 外一名

被告

三陽水産株式会社 外一名

主文

被告等は各自原告阿部藤治郎に対し金拾万円、原告阿部琴子に対し金拾万円及之等に対する昭和三十年八月二十六日より右金支払に至る迄年五分の割合の金員を支払うべし

原告等の其の余の請求は之を棄却する

訴訟費用中訴状貼用印紙の内金七百円は原告等の負担とし、其の余の訴訟費用は全部被告等の連帯負担とする。

この判決中原告等勝訴の部分は原告阿部藤治郎に於ては金参万円、原告阿部琴子に於ては金参万円の担保を供するときは其の該当部分を仮に執行することができる

被告等が共同又は単独にて原告阿部藤治郎に対しては金参万円、原告阿部琴子に対しては金参万円の担保を供するときは該担保供与者は其の該当部分の右仮執行を免るることができる

事実

(省略)

理由

真正に成立したるものと認むる甲第一号証の十二、二十一、二十三成立に争なき甲第一号証の五、六、十、十三、十四、十五、十六、十八、十九、二十、二十二、二十四証人千葉茂男、武山熊治の証言及被告本人小野耕吉尋問の結果検証の結果並に弁論の全趣旨を綜合すれば被告会社は石巻市内に営業所を持ち同地に於て水産物の漁獲、加工、販売を営む会社であり被告小野は同会社に雇われ同会社の貨物自動車の運転者として其の貨物自動車運転の業務に従事していたものであるが被告小野は同会社の業務として昭和二十九年十月二十三日午後三時四十分頃同会社の貨物自動車に魚空箱を満載して石巻市門脇浜横丁百十六番地先の十字路を時速約五粁で左折せんとしたが其の曲り角にはリヤカーを曳いている中学生が立ち停つて貨物自動車の通過するのを待つて居り更に其の後方を歩行して来た阿部敏夫(当時六才)がリヤカーの後方約三米の所で立ち停り被告小野の運転進行して来る貨物自動車を眺めて居る状況にあつたので左折するに際しては前車輪と後車輪の施廻半経の相違を考慮せずして道路の左側に寄り右敏夫の行動に注意を払わず漫然進行するに於ては後車輪が内回りして車体が右敏夫に接近し右敏夫の行動如何によつては或は接触等して同人に危害を加える虞あるので自動車運転者としては大廻りをし右敏夫の動静に充分注意を払つて運転進行して右のような危険の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務あるに之を怠り右のような措置をとらずして運転した為に其の傍を接近して通過する際右敏夫がリヤカーと貨物自動車の間を通り抜けようとして歩き出し自動車に接近して来たことに気付かず自動車の左側面で同人に衝突転倒した同人を左後車輪で轢き脳底骨骨折により即死するに至らしめたるものなることを認むるに足る依て右の事故は被告小野の過失によつて生じたるものと認むるのが相当である而して成立に争いなき甲第二号証によれば右敏夫は原告等の長男なることを認め得べきを以て民法第七百十一条により被告小野は原告等に対し右敏夫死亡についての損害賠償の責あるものであり原告等が右敏夫死亡により精神上の苦痛を蒙りたることは当然なるを以て被告小野は之に対し相当の慰藉料を支払うべき義務あるものと謂うべく其の額は本件諸般の事情に後段認定の本件被害についての原告等の過失を斟酌し原告等に対し各金十万円を以て相当と認める而して右被告小野の加害は被告会社の事業の執行につき生じたるものなることは前示認定に徴し認めらるるところなるを以て被告会社も亦民法第七百十五条により右被告小野の原告等に対する慰藉料支払の債務について原告等に対し其の支払の義務あるものである依て原告等より被告等に対する右慰藉料及之に対する本件記録上明らかなる本件訴状が被告等に送達せられたる日の翌日たる昭和三十年八月二十六日より右金支払に至る迄民事法定利率年五分の支払遅延の損害金の本訴請求は正当である尚右敏夫は本件被害当時満六才数箇月の幼者なりしことは右甲第二号証により明らかであり従つて同人には当時責任を弁識する能力ありしものと認め難きを以て同人にも本件被害について過失があるかどうかを論ずるの余地なく即ち当時の同人の行動如何に関せず同人には過失の責を負わせ難きものであるが満六才余の幼者である右敏夫を唯一人車馬の往来する街路に外出させることは原告等にも右敏夫の監護上遺憾の点あるものにして本件被害について原告等に全然過失の責なしとゆうを得ざるを以て右過失を斟酌し本件慰藉料の額を定むるものである依て以上の限度に於て本訴請求を認容し其の余の本訴請求を棄却し仮執行及其の免除の宣言については民事訴訟法第百九十六条、訴訟費用の負担については同法第九十二条第九十三条第一項を各適用し主文の通り判決する。

(裁判官 小林新太郎)

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